んだから出してくれないかなあ」
 敬二郎は言葉を和らげて言った。
「用事? 何の用事だ?」
 正勝はそう叫びながら、鉄砲を構えて路上へ出てきた。
「正勝くん! きみはどうして逃げたりなんかするのかね?」
「用事を聞こう?」
「きみは浪岡を、どこへやったのかね?」
「そんな用事か? そんなことにゃあなにも、返事をしようとしまいとおれの勝手だ」
「正勝くん! それは少し乱暴じゃないかなあ? 落ち着いて考えてみてくれ」
「森谷家の財産は現在だれの財産でもねえんだ。宙に浮いている財産なんだ。自分のもの顔をするのはよしてくれ」
「きみは本気でそんなことを言ってるのか?」
「本気だとも。きみが紀久ちゃんと結婚して森谷家を相続したら、そん時にゃあ立派に返事をしよう」
「そんなことを言って、浪岡を見えなくでもしたらどうするんだね? 浪岡が高価な馬だってことは、きみも知っているだろうが……」
「余計な心配だよ。どこかその辺の開墾場へ逃げ込んだに相違ねえから、開墾地のだれかが森谷家への貸し分の代わりに捕まえるだろうから。開墾地の人たちゃあ、開墾の賃金をほとんど貰《もら》ってねえのだからなあ」
「無茶なこと
前へ 次へ
全168ページ中127ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング