なかった。
 そこへぽかぽかと蹄鉄《ていてつ》を鳴らして、三頭の馬が殺到してきた。
「来やがったなっ!」
 正勝は鉄砲を持ち直した。
「殺っつけてしまえ!」
 開墾地の人たちは叫びながら、戸口を蹴飛ばすようにして戸外へどどっと雪崩《なだ》れ出していった。
 路上には敬二郎と松吉と平吾との三人が馬から下り立って、轡《くつわ》を左手に掴み、鉄砲を右脇《みぎわき》に構えて戸口を睨《にら》んでいた。
「いまここへ、正勝の奴が駆け込んできたでしょう?」
 敬二郎が、前のほうへひと足踏み出しながら訊《き》いた。
「おれらが、そんなことを知るかい?」
「でも、きみたちはいまそこから出てきたじゃないか?」
 松吉が敬二郎に代わって言った。
「そんなこたあこっちの勝手だ」
「きみたちはそれじゃ、正勝の奴を隠そうとしているんだな? 庇《かば》っているんだな?」
「庇ったら悪いか?」
 開墾地の人たちは掴みかからんばかりに殺気立っていた。
「正勝を出せっ!」
 平吾は鉄砲を突き出しながら叫んだ。
「てめえらの指図なんざ受けねえ」
「指図を受けねえと?」
「受けねえとも」
「そんなことを言わないで、用事がある
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