旦那が乗っていけねえって言うんだから、若旦那の言うとおりにしたらいいじゃねえか?」
 常三が前のほうへ出てきて言った。
「乗っていけないと言ったら下りろ!」
 声高に叫ぶと同時に、敬二郎は長い鞭を浪岡の尻《しり》に振り当てた。不意を食らって、浪岡は嵐《あらし》のように狂奔した。瞬間、正勝の手の猟銃が引き裂くような音を立てて鳴った。浪岡はなおも激しく狂奔した。しかし、正勝は長靴の脚で馬の胴を締め、左手で手綱を捌いて、彼ら三人の間へと割り込んでいった。
「下りなけりゃあ撃つぞ!」
 常三は馬上の正勝に銃先《つつさき》を向けた。
「撃てるなら撃て!」
 瞬間、正勝は馬首を変えて、ぴゅっと開墾場のほうへ向けて駆けだした。
「逃げるのか?」
 平吾が横からそう声をかけて栗毛の馬に拍車を入れ、正勝の後を追おうとした。
「平さん! 平さん! この鉄砲を持っていけよ」
 常三が駆けていって、馬上の平吾に鉄砲を渡した。
「きみたちもすぐ後から来てくれ」
 平吾は鉄砲を受け取りながら言って、すぐ正勝の後をいっさんに追っていった。

       4

 敬二郎と松吉とは真っ青になりながら、顔を見合わせた。
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