なに? そんな勝手な真似《まね》をさせておくもんか。行こう!」
 正勝はそう言って、ぐっと拍車を入れた。

       3

 厩舎の前には、松田敬二郎と、常三と松吉との三人が唇を噛み締めながら立っていた。そして、敬二郎は長い編革の鞭で長靴の胴をぴしぴしと打っていた。常三は猟銃を杖《つえ》にしていた。松吉は長い綱を手にしていた。
 正勝は左の手でぐっと手綱を引きながら、上半身を起こして猟銃を人指し指が引金のところへいくように持ち替えた。
「何かおれに用かい?」
 正勝は反り身になってそう言いながら、手綱を引き絞っておいて浪岡の胴へぐっと拍車を入れた。浪岡はどどっとふた足ばかり躍った。敬二郎ら三人は狼狽《ろうばい》しながら横に避《よ》けた。
「正勝くん! 浪岡をきみの乗り馬にしちゃ困るじゃないか?」
 敬二郎は吃《ども》りながら顫《ふる》えを帯びた声で言った。
「浪岡はきみの馬か?」
「ぼくが管理している馬だ」
「何を言うんだい? きみの管理している馬なんか、まったく一頭だっていないはずだ。馬はわれわれが管理しているんだ。きみは帳面のほうさえやっていればいいんだ」
「正勝! しかし、若
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