を敬二郎に奉って、そのうえ敬二郎を旦那として戴《いただ》かなくてもいい」
「しかし、そんなことを言ったって、開墾はおれらの親父がしたかもしれねえが、大旦那から敬二郎さんに譲られていく土地だもの、おれらが何を言ったところで……」
「そんなことはねえ。森谷の親父はおれの親父まで騙《だま》して、開墾をした人たちから開墾地をみんな取り上げて自分のものにしてしまったのだ。けれども、森谷の親父の死んでしまったいまはだれの土地でもねえのだ。いや! 開墾した人たちの土地なのだ。しかし、このままにしておけばこのまま紀久ちゃんのものになって、紀久ちゃんが敬二郎と結婚してしまえば、それこそ敬二郎のものになってしまうのだ。そこで、紀久ちゃんの手に移らねえうちに、開墾した人たちが自分の手に戻さなくちゃ! 紀久ちゃんが帰ったら、おれは紀久ちゃんに言うつもりだが、紀久ちゃんはそれが分からねえ人じゃねえんだ」
「とにかく、敬二郎さんのところへ行ってくれよ。頼むから」
「いったい、敬二郎の奴《やつ》め、おれになんの用があるんだろう。あの野郎は油断ができねえんだが……」
「なんでも、その浪岡をどこかへ売るらしいなあ」

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