だし、調教を少しつければ、それだけでもう浪岡は貴族階級の乗り馬だよ」
「それを正勝の野郎に勝手にさせておくなんて、そんな馬鹿《ばか》なことはねえ! 敬二郎さん! おれが引っ張ってくるから、あなたからぐっと差し止めなせえよ。それで、あの野郎があなたの言うことを聞かなかったら、そのときゃあおれらが黙ってねえから」
「それじゃ、とにかく差し止めてみよう」
「それじゃ、みんなは厩舎《うまや》の前へ行って、あそこで待っていてくれ。すぐ引っ張ってくるから」
 平吾はそう言って長靴をぎゅっぎゅっと鳴らしながら、戸外へ出ていった。

       2

 平吾は栗毛《くりげ》の馬に乗って、放牧場の枯草の中を一直線に駆けていった。
 正勝は浪岡に※[#「足へん+鉋のつくり」、第3水準1−92−34]《だく》を踏ませて、楡《にれ》の木のある斜面を雑木林の谷のほうへ下りてくるところだった。右手には猟銃を持って、手綱は左手で捌《さば》いていた。正勝はそして、木の枝に鳥を探りながら、平吾がすぐその近くへ行くまで知らずにいた。
「正勝《まっか》ちゃんよう!」
 平吾は馬の上から声をかけた。
「平さんか?」
 正勝
前へ 次へ
全168ページ中118ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング