勝の野郎一人ぐれえなら畳んでしめえばいいんだからなあ。叩《たた》き殺して谷底へでも投げ込んでしめえば、それで片づいてしまうんだもの」
「しかし、紀久ちゃんの気持ちが最近ではぼくのほうよりも正勝くんのほうへ傾いているかもしれないのだから、紀久ちゃんが帰ってきて、正勝くんより逆にぼくのほうが追い出されるかもしれないからなあ」
「そんなら、お嬢さまの帰ってこねえうちに、いまのうちにやってしめえばいいですよ。まず試しに、何かあいつのいやがることを言いつけて、無理にでもさせるんだなあ。それで、あいつが言いつけどおりにやらねえんなら、おれたちが黙っていねえから」
「いったい、正勝の野郎は今日は何をしてるんだ? 今日は朝から見えねえじゃねえか?」
 松吉が突然、思い出したようにして言った。
「今日は浪岡に乗って、放牧場のほうで鉄砲を撃って歩いていたよ」
「浪岡に乗って?」
 敬二郎は驚きの表情で、訊《き》き返した。
「近ごろは正勝の野郎、浪岡にきり乗りませんよ」
「浪岡を自分の乗り馬にするつもりなのかな? 浪岡なら、乗り馬としちゃ最上の馬だからなあ。まったく、この牧場の中でももっとも値段の出ている馬
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