んだ」
 敬二郎はそこまで言って、言葉を切った。そこへ婆《ばあ》やが紅茶を運んできた。紅茶を啜《すす》りながらふたたび沈黙が続きだした。
「それで、正勝の野郎はどんなことを企んでるのかね?」
 しばらくしてから松吉はそう言って、煙管《きせる》に煙草を詰めた。
「正勝くんはこの森谷家の財産を、自分のものにしようとしているのだよ。他人《ひと》から聞いた話だけれど、どうもそうらしい気振りがぼくにも見えるんでね。それできみたちに相談してみるわけなんだよ」
「あの野郎なら、それぐらいのことは企みかねないなあ」
 平吾が勢い込んで言った。
「それで、きみたちはどう思うかね」
「どうもこうもねえことじゃありませんがなあ。正勝の野郎をいまのうちに、この牧場から追い出してしめえばいいんですよ。だれがなんと言ったって、いまのところあなたはこの牧場の主人《あるじ》なのだから、あなたがあの野郎を追い出す分にゃあだれも文句はねえはずだ」
「しかし、追い出すといっても、簡単に出ていく男じゃないからなあ」
「あなたがびしびしとやりゃあ、そんなことなんでもねえじゃありませんか。造作のねえことですよ。面倒なときゃあ、正
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