「何が、何がそんなにおかしいんだえ? 紀久ちゃんの意志がどうか知らないが、いまにぼくと紀久ちゃんが一緒になることだけは確かなんだ。その時になってから、なんとでも言いたいことを言うさ。ぼくは自分の下男から軽蔑されて、それで黙っているような、それほどの善人じゃないから」
敬二郎は怒りのために吃《ども》りどもり、身を顫わせながら言うのだった。
「はっはっはっ? ……驚き入った。恐れ入ったよ。まったく! ……しかし、旦那さま然と構えるなあどうも少し早いような気がするがなあ」
「何が早いんだ? すでに決定していることが、何が早いんだ?」
「しかし、自分の意志で自由にできることになると、紀久ちゃんだって、だれか本当に自分の好きな人と結婚をするかもしれないからなあ。きみはすると、いまのおれのように下男として働かなくちゃならなくなるかもしれないからなあ。そして、これはどうもそんなことになりそうだよ」
「何を言っているんだ。きみはそれで、ぼくを軽蔑し切っているんだな? 帰ってきても挨拶《あいさつ》もしなければ、勝手に物を持ち出したりして。どんなことになるか、いまに目の覚めるときがあるさ」
「少なくとも
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