なくなるから、いまのうちだけでもそう思っているんだね」
「変なこと言うね」
詰め寄るようにして敬二郎は言った。
「何が変なことなんだ。おれは本当のことを言っているんだ。本当のことを言うのが変なのか?」
正勝は開き直って鋭く言った。彼はもう微笑んではいなかった。敬二郎は取りつき場を失った。
「ぼくには、それがどうも気になって仕様がないんだよ」
「良心に恥じるところがあるからさ」
「そんなものはないがね」
「なかったら、なにも気にかけることなんかないじゃないか?」
「きみが変なことを言うからだよ。いったい何のことだか、はっきりと言ってくれたまえ。頼むから」
「そんなら言ってやろう。しかし、せっかくの楽しい夢がそれでもう覚めてしまうかもしれないぞ。それでもいいんなら言おう」
「構わないとも。話してくれ」
「言ってみればまあ、おれときみとの立場も地位も、全然反対になってしまうのさ」
「立場が反対になる?」
敬二郎は驚きの目を瞠《みは》って正勝の顔を見詰めた。しかし、敬二郎はしだいに驚きの表情を失って、侮蔑的な微笑に崩れていった。そして、敬二郎は侮蔑的に微笑みながら揶揄《やゆ》的に訊いた。
前へ
次へ
全168ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング