、それこそ余計なお世話だったんだ」
「余計なお世話だと? 余計なお世話かはしんねえが、もしあん時にだれも世話する者がなかったら、てめえら母子《おやこ》はどんなになっていたか、それを考えてみろ!」
「ふん! そんなこたあさんざんぱら考えていらあ。おれらの親父は何のために死んだか? だれのために殺されたか? そして、お袋はおれらを育てるためにどうしたか? なぜ自殺したか? だれのために自殺したか? そんなこたあ何もかも知っていらあ。おれらの親父は過ってあの谷底へ落ちたんでも、自殺したんでもねえんだ。突き落とされたんだ。自分の財産のために、自分の財産を肥やすために、おれらの親父を突き落とした奴《やつ》がいるんだ。おれらの親父は開墾地の小作人たちのために、正義の道を踏もうとして地主の奴から谷底へ突き落とされたってこたあ、おればかりじゃなく、だれだって知っていることなんだ」
「地主のために? てめえはそれじゃ、てめえの親父を殺したのがおれだっていうのか?」
喜平はさすがに顔色を変えながら叫んだ。
「もちろん!」
正勝は鋭く太く叫び返した。
「そんな馬鹿なことがあるもんか? てめえの親父とおれとは、兄弟のようにしていたんだぞ」
「兄弟のようにして、ほとんど共同事業のようにして牧場と農場とを始めて、それが成功しかけてくると、相手がいたんではそれから上がる利益が自分の勝手にならねえもんだから邪魔になってきて、そのためにってこたあだれだって知っているんだ。利益の分配のことについてだけだったら、場合によっちゃあ秘密に隠しおおせたかもしれねえさ。しかし、おれらの親父は小作人たちには味方していたんだ。小作人たちが内地から移住してきたときに、開墾について小作人たちに約束したことは、生命《いのち》に懸けても枉《ま》げようとなんかしていなかったんだ。開墾地の人たちが自分のものとして開墾したところはあくまでもその人たちのもの、地主の耕地として開墾したところは地主のものって区別をはっきりと立てていたんだ。それを欲の皮を突っ張って、自分の名義で払い下げた土地だっていう口実で、当然開墾地の人たちの土地であるべきところまで小作制度にしようとしたんじゃねえか? それにゃあ、仲へ立って小作人たちの味方になって正義の道を踏んでいこうとするおれらの親父が邪魔になったんだ。邪魔になったから狩りに連れ出して谷底へ
前へ
次へ
全84ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング