たばこ》に火を点《つ》けながら、目を三角にして怒鳴った。
「さあ! 言え!」
しかし、正勝は顔を上げなかった。
「言え! その秘密ってのを言え!」
喜平は怒鳴りつづけ、追及しつづけた。
「なんだって黙っていやがるんだ! さあ! 言えったら言え!」
正勝はやはり顔を上げなかった。
「言えったら言え! 秘密の何のと言いやがって! さあ! 言え!」
喜平はまた鞭を取り上げて、書卓の上をぴしぴしと打ちつづけながら叫んだ。
「秘密の何のと言やあ、馬鹿野郎《ばかやろう》、驚くとでも思っていやがるのか? てめえらに威《おど》かされてどうなるんだ? 馬鹿野郎め、何が秘密だ?」
喜平はそこで、書卓を強く打ち据えた。
「それじゃ、秘密なんて、ないというんですか?」
正勝はぐいと顔を上げて、叫ぶように言った。
「なんだって!」
「人殺しのようなことをしていながら、そんでもなにも秘密がねえなんて……」
「人殺し? この野郎め! 黙っていりゃ勝手なことを吐《ぬ》かしやがって、おれがいつそんな人殺しのようなことをした?」
「おれらのお袋がだれのために死んだか、何のために死んだか、おれらが知らねえとでも思っているのか?」
「そんなことがおれと何の関係があるんだ?」
「関係がねえ? 関係がねえと思ってんなら教えてやらあ」
「馬鹿野郎! それをおれに教えるっていうのか? てめえのお袋は、てめえの親父《おやじ》が死んでから生活に困って、自殺をしたんだぞ。そんでてめえらは、干乾《ひぼ》しになってしまうところだったんだ。その干乾しになってしまうのを、いったいだれが助けてやったと思ってんだ?」
「それじゃいったい、おれらのお袋を自殺させたのはだれなんだ」
「そんなことをおれに訊《き》いたって分かるか?」
「それじゃ教えてやろう。おれらのお袋は、きさま! きさまのために自殺したんだぞ」
「なんと? おれのために自殺をしたって?」
喜平は驚異の目を瞠《みは》りながら叫んだ。
「黙っていりゃ吐かしやがる?」
喜平はそして、いまにも掴《つか》みかかろうとするような形相さえ示した。しかし、正勝は喜平の顔に向けてぐっと目を据えたまま、身動《みじろ》ぎもしなかった。喜平は鞭を取って、ぴしりと強く書卓の上を打っただけだった。
「馬鹿野郎め、育てられた恩を忘れやがって!」
「大変な恩だ。こっちから言わせりゃあ
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