切にするようにといって金まで置いて行ってくれたのだ。そしていつものように泊まって行ったのだ。
彼女は泣けて仕方がなくなって来た。
彼女は、一番の列車を牽《ひ》いて帰って行く、吉田の、後ろ姿だけでも見送りたいと思った。彼女はふらふらと線路の方へ出て行った。
九
機関車が、非常汽笛を鳴らして靄《もや》の中に停車した。
「靄で、ちっとも見えやしねえんだもの。」
機関手が呟きながら降りて行った。助手の火夫が続いて飛び降りた。
「轢いたんじゃないか?」
車掌が駈けつけて来た。
「女だな。手に何か持っているじゃないか?」
腰から切断された胴体の手が、何か手紙のようなものを握っていた。それには「吉田機関手様」と書かれていた。
「吉田機関手って、馘首《くび》になった吉田のことかな?」
「だって、他にいないですね。」
そこへ四五人の乗客が客車から出て来た。四五人きり乗っていなかったのだ。その中に背広を着た吉田が混じっていた。
「青木! 轢いたな。」
吉田は歩み寄りながらいった。
「おう! 吉田君。君これに乗っていたんだね? これ、君に宛てたのらしいんだが……」
青木機関手
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