って来た。なんらそのきっかけになる事件がないだけで追放することのできずにいた人間が、狂暴な発作を起こすようになったのであるから。
吉本は人事係の前に呼び出された。
「きみは近ごろ、少し具合が悪いそうじゃないかね? いったいどんな風なのかね?」
こんな風に人事係は言った。
「別に大したことはないんです」
「きみは大したことがなくても、一緒に働いている者はずいぶん迷惑らしいからね?」
微笑みながら人事係は言った。
「少し工場を休んで、静養してみてはどうだね? 取り返しのつかないようなことになると、あとで後悔してみたところで仕方がないから……」
「それはそうですが、ほくはいますぐ工場を休むとなると、生活ができないんです」
「静養するようだったら、工場のほうから幾らか金を出すから、まあ、ゆっくり静養するんだね。そして、回復したらまた来たらいいじゃないかね?」
「しかし、大したことはないんですよ。ただこうして話しているうちに、なんかこう……」
吉本はそう言いながら、人事係の机の上からインク・スタンドを取ってそれを手にしたかと思うと、人事係の頭部を目がけて投げつけた。
「おいおい! 何をす
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