作り替えていったんだ。ぼくだってもう、永峯のことなんか忘れているんだから」
「永峯の奴め、仕様のねえ奴だな。工場の中の組織は作り替えやがらねえで、吉本の頭なんか変に作り替えやがってさ」
 職工たちはそんな風に言ったりした。
「しかし、もう大したことはないんだ。すぐよくなるよ」
 吉本はこう言って、平常は少しも変わったところがないのだが、ときには、そう話している途中から発作に襲われることがあった。
 発作に襲われるときの吉本は、その直前まで少しも変わった様子がなくていて、突然に相手の頭部を殴りつけるのが常であった。
「なんだえ? きさまは? 冗談はよせ!」
 冗談をしているのだと思って吉本の顔を見ると、彼の顔はもう変に緊張してしまって、静かに頭を振りふり怪訝そうに相手の顔を見詰めているのであった。
「なんだえ? 吉本! 冗談じゃねえのか?」
 しかし、吉本はその時にはもう何事も判別がつかぬらしく、そしてそれ以上には狂暴になるらしくもなく、ただじっと相手の顔を見詰めているだけであった。ときどき静かに頭を振りながら。

       3

 鉄管工場の経営者側にとっては、もっともいい機会がや
前へ 次へ
全29ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング