たちで、約束をしたのは大学にいるころらしいんで、わたしたちにはよく分からないんですが、他人《ひと》の噂《うわさ》ですと労働運動らしいんですよ。なんでも、二人で一緒になってわたしたちの工場の中へ組合を作ろうっていう相談をしていたらしいんですが。そして纏《まとま》りかけていたんですが、その永峯って男はどういうものか急に気が変わってしまって、工場を出ていってしまったんです。それで組合のほうもおじゃんになってしまったし、兄弟のようにしていた友達がいなくなって寂しくなったんですね。それから急に鬱ぎ出したんですから」
「しかし、それにしても偽映鏡を見ているうちに気が変になるというのは、ちょっと不思議だがな。とにかく、じゃ、気をつけて連れていってくれ」
巡査はそう言って、そのままそこから群衆の中へ割り込んでいった。
「そいつは、二人組みの詐欺だろう」
群衆の中からそんな声が起こった。そして、群衆は潮騒《しおさい》のように崩れだした。
「吉本! 本当にしっかりしてくれ」
茶色の作業服はそう言って、吉本の手を引いて群衆の中へ入っていった。
2
鉄管工場の職工たちはひどく吉本に同
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