、きみの知っている人間で、引き取っていって保護を加えるというのなら、そりゃあ引き渡すがね。しかし、どうも意識を失っているというような点もあるから、よほどその、気をつけないというと……」
「吉本《よしもと》! いったいどうしたんだよ。え? しっかりしろよ」
 茶色の作業服は、青い作業服の肩を叩《たた》きながら言った。青い作業服の吉本は自分で自分が分からないらしく、首を傾けて考え込むようにした。
「本当にしっかりしなきゃ、駄目じゃねえか?」
 茶色の作業服はもう一度、吉本の肩を叩きながら言った。しかし、吉本はやはり半ば夢を見ているというような具合であった。群衆がその周りから口々に喚《わめ》き立てた。
「いったい、その神経衰弱になった原因というのは、どんなことなんだね?」
 巡査は厳粛な顔をして、茶色の作業服に訊《き》いた。
「友達関係からなんですがね。何か深い約束があったとみえて、まるで兄弟のようにしていましたっけ、その友達の永峯《ながみね》ってのが、約束を反古《ほご》にしたらしいんですよ」
「その約束っていうのは、どんなことか分からないのかね?」
「二人とも大学を中途で退《ひ》いてきた人
前へ 次へ
全29ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング