。――それは当然おまえのものなんだから、安心して取ってお置き。」
彼は威厳をさえ示していた。
「そうだろう? そのためにおまえは、一度厭な思いをすればいいところを、二度しなければならないことになる。そんな馬鹿なことって無いんだ。――おまえはそう思わないかね?」
「…………」
「儂《わし》は、自分のやっていることを、決していいことだとは思っていないが、決して悪いことだとも思ってはいない。――働こうたって、仕事はありゃしないんだし、食って行けなければ、持っている者からもらって来るより仕方が無いじゃないか? 此方《こっち》は、働くのが厭だというんじゃないんだから。――おまえだって、平気そうな顔をしてそんなことしてるけど、決して平気じゃあるまい? 別のちゃんとした仕事をして食って行ければ、そうしたいのだってことあ、儂はちゃんと見抜いているんだが……」
そのとき、誰か、あわただしく玄関へ飛び込んで来た。腹掛けをして背広を着ている青年であった。
「すみません。僕をちょっと隠してくれませんか? 追い掛けられているんです。」
「追い掛けられている? 仕様がないじゃないか。そんなへまなやり方じゃ。―
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