んて……」
「本当だわ。あんまりだわ。」
「私は、埋め合わせをしてもらわなくちゃ。言って見れば、あの人と、房ちゃんのためなんだから、房ちゃんとあの人とに。埋め合わせてもらわなくちゃ……」
「わたしにも? 小母さん!」
「だって、房ちゃんなんか、半日も働きに行きゃあ、きっと五円にはなるんだもの、それぐらいのことはしてくれたって、いいじゃないかね? 私が好きで房ちゃんに従《つ》いて行ったわけでもあるまいし、それぐらいのことをしてもらわなくちゃ、全く、こっちが立ち行かなくなってしまうんだもの……」
 婆さんは玄関で立ったまま喚《わめ》き続けた。

     六

 房枝が今日は小母さんの家の玄関の方から這入って来た。
「小母さん! あのお婆さんのところで、泥棒に這入られたんですって。」
「泥棒に?」
 小母さんも流石《さすが》に眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》るようにした。
「わたし、あの人じゃないかと思うんだけど……」
「あの人って? ――あ、あの人か。そうだね。そうかも知れないよ。屹度《きっと》あの人だよ。――あの人のことだもの、少し余計に取られ過ぎたと思えば、それぐらいのことは、やりかねないから。」
「どうもそうらしいのよ。」
「――それが、あのお婆さんを自分の家に呼んで置いて、その留守の間にやったらしいのよ。自分が帰るまでは、お婆さんが自分の家に待っていると思えば、いくらでも念入りに探せるわね。全く、あきれてしまうわ。」
「でも、そこまで考えてやるなんて、なかなか偉いもんだね。やっぱり、あの人でなければ出来ない芸当だよ。」
「厭な小母さん! 厭に感心するのね。」
 房枝は微笑《ほほえ》みながら吐き出すように言って、裏口へと部屋の中を横切った。

     七

 房枝は初めて彼の職業を判然《はっきり》と知ることが出来た。彼女は新しい驚きをもって彼の顔を見直すようにした。その手には、あの婆さんのところから取り戻して来たという二枚の紙幣が掴まされていた。
「――変に思うかも知れないが、ようく考えて御覧。おまえだって、好きでこういうことをやっているのじゃあるまい。それをしなければ、母親は病気をしているし、おまえより働くものがいないし、食って行けないから、仕方なくやるのだろう? それを横から、働かないものが、働いたものの倍も横取りするって法は無いんだ
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