、感覚神経に欠けていた。その代わり、彼は燃えるような情熱をもっていた。彼は火の塊のような青年であった。そして、賢三郎を絶対のものとして信頼していた。信者がその神を信頼するようにして信頼していた。賢三郎の言葉は布川にとって絶対であった。燃えるような情熱をもって、賢三郎の言葉を実行に移そうとするような、布川はそういう青年だった。
「……行ってよく様子を見てきました。あなたの言うとおりです」
 鉄工場へ花見の仮装を運んでいってきた布川は、帰ってくるとすぐそう賢三郎に告げた。
「あなたの言うとおりです。お花見ぐらいでは、どんなことをしたって治まりません。悪くすると、あなたの言うとおり暴力が持ち出されそうです」
「やむを得ない。ああいう分からずやの親父《おやじ》には、当然テロリズムを示さなくちゃならないだろう。それは職工側にしたって、そんなテロリズムによらずに協調できればそのほうがいいに違いないが、相手が分からずやでは仕方があるまい」
「暴力? しかしこの場合、暴力なんかで、うまく治まるでしょうかね? だいいち、暴力なんというものは正しい方法じゃないのでしょう」
「方法としては正しくなくとも、あ
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