とを言ったって、一般に緊縮の時代じゃないか。こんな時に、そりゃあ無理というもんだ」
前田工場主はそう言うのだった。
しかし、彼らは決してその生活を膨張させようというのではなかった。現在の状態について要求しているのだった。それなのに、前田工場主は緊縮政策をもって、にべもなく彼らの要求を退けた。
「まあここしばらく、生活を緊縮することだ。実を言うと、工場の経費だって緊縮したいところなんだからなあ。まあまあ、できるだけ生活を緊縮して……」
「なにを? 緊縮しろ? 緊縮できるくらいならなにも言わねえや」
職工たちには、とうとう我慢のできない日が来た。
2
しかし、工場主の前田弥平氏はやはりそれが不安になってきた。奥深い部屋の隅に、春にもなれば春の陽光が射《さ》す。新しい時代に対して目を覆っている前田弥平氏の目の底にも、新しい時代の世相の影が映らずにはいなかった。その影の中に、新しい時代はいかなる姿で映っているか? それを見たとき、前田弥平氏はじっとしてはいられなくなってきた。
彼はいろいろと考えた。嵐《あらし》の暗雲を孕《はら》んで物凄《ものすご》いまでに沈滞した前
前へ
次へ
全28ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング