おいて自分の計画の第一歩を踏み出そうとしていることはもちろんであった。彼は仮面の群れに向かって声を張り上げた。
「――諸君! わたしは今日のこの仮装観桜会の主催者として、何よりもまず今日の晴天であったことを諸君とともに喜ぶ者であります」
「だれも喜んでなんかいねえや」
 だれかが後ろから怒鳴った。仮面の目がいっせいにその声のほうへ集中した。
「ふんとだあ! 降りゃあよかったんだ」
「……諸君! 空には花がいまや満開です。平和な空に花は共に楽しく微笑んでいます。そして地には、われわれ人間がこうしていま平和な喜びをもって宴会を開こうとしています。共に楽しみ、喜びをもって、平和を……」
「嘘吐《うそつ》きゃあがれ!」
 また一つの仮面が怒鳴った。
「証拠を見せてやれ! 証拠を!」
 その時だった。仮装の一つが闘鶏のように飛び出していった。次の瞬間に、その男は弥平氏が首にかけていた花見の手拭いに手をかけて、弥平氏をぐっと背後へ引き倒していた。そして、その男はその手拭いの端を握って弥平を曳《ひ》き摺《ず》り回した。弥平氏は声を立てることもできずに身を※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]
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