…」
「平三氏! そんなことを言うとおめえこそ笑われるぞ。コアタマと読む奴がどこの世界にあって。こりゃ、誰が見たってコガシラじゃねえか?」
「なるほど。――ときに、どんな役目なんだね、その小頭っていうのは?」
 平三は無闇《むやみ》と口尻を歪めながら言った。
「どんな役目だか、まあ見てれば今にわかるさ。」
 清次郎はこう五月蠅《うるさ》そうに言い捨てて行ってしまった。
 まもなく教練が始まった。
「集まれい! きをつけ! 右いならえ!」
 騎兵軍曹あがりの組長の号令で、消防手は整列した。小頭を先頭にして、幾組もの横列縦隊が出来た。
「右むけい……おい!」
 横列縦隊は右に向きをかえた。が、そのとき、禿頭の清次郎だけは左を向いて、仁王様のように四角張った。
「なるほど。」
 平三はそう言って、また口尻を歪めた。
 その瞬間に清次郎は向きを右に向きかえた。あわてていたが悠然《ゆったり》した態度《ものごし》で。――併し最早そのときには前後左右から若い消防手の、声を殺そうとする笑いが彼を取り捲いていた。清次郎は真っ赤な顔で苦虫を噛み潰《つぶ》していた。
 教練の整列が崩れるのを待っていて、平三
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