や》それだけで得意でなければならなかった。それに今日は最初の連合教練なのだった。
併し彼はその小頭の半纒《はんてん》を麗々しく着ていることが何かしら気恥ずかしいというように、田圃《たんぼ》へ出る時と同じように首に手拭いを結んでいた。その端が襟に染め抜いた小頭という白文字《しろもじ》の小の字を掩《おお》うて、頭《かしら》という字だけを見せていた。
そこへ一人、髯面《ひげづら》の男が、見物人を掻き分けて出て行った。
「なんだね? 清次郎《せいじろう》氏。おめえ、半纒《はんてん》さまで禿頭《はげあたま》としたのかね? 禿頭なら、その頭だけで沢山なようなもんだが……」
髯面の男は、おかしさを抑えながら口尻を歪《ゆが》めて言うのだった。
「ふむ。そう馬鹿にしてもらいますめえ。」
清次郎は、むっとして首の手拭いを払い除けて見せた。
「平三《へいぞう》氏! 判然《はっきり》と見て置いてもらいてえもんだな。こうなら解《わか》んべから。」
「ほお、上に判然と書いてあるんだね。俺は、頭の上が禿げて見えねえから、禿頭《はげあたま》かと思って。――大頭《おおあたま》なのに、小頭《こあたま》と言うのも…
前へ
次へ
全15ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング