或る部落の五つの話
佐左木俊郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)消防組を統《す》べて

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)禿頭の老|小頭《こがしら》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)一入《ひとしお》[#「一入」は底本では「一人」]
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     一 禿頭の消防小頭

 或る秋の日曜日だった。小学校の運動場に消防演習があった。演習というよりは教練だった。警察署長が三つの消防組を統《す》べて各々の組長が号令をするのだった。号令につれて消防手の竿《さお》は右向き左向き縦隊横隊を繰り返すのだった。
 その教練の始まる前だった。禿頭の老|小頭《こがしら》が、見物人達の前へ来て何か得意らしい調子で話をしていた。
「どうも、小頭《こがしら》なんて、何十人という部下の先頭に立たねばなんなくて、どうも気忙《きぜわ》しくて……」
 彼はそんなことを言っているのだった。彼は何十年となく何かの名誉職に就くことを望んでいたのだったが、今度の消防組の組織のとき多額の寄附金によって初めて小頭になることが出来たのだった。彼は最早《もは
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