、被告杉沢清次郎が、藤原平三を憎んでの祈祷《きとう》を機縁《きえん》として、藤原平三の猟犬ジョンの頭を硫酸にて焼き、約二週間の後には、黄燐を塗った肉片を与えてその猟犬を死に到らしめるなど、一つとして、神を信ずるという迷信を遠ざけようとした手段とは思われない。」
「最早、医術の力を説いても無駄だと思ったからで御座いました。神の力だけを信じている農村の病患者を救うには、竹駒稲荷大明神の御供物《おくもつ》、お神酒《みき》と言って医薬を施すより他には途がないものと思ったからで御座います。」
「――そうではあるまい! 被告は一度として貧しい祈祷者に薬物を混入した供物《くもつ》を与えた事実が無いではないか。これは、賽銭《さいせん》寄進物《きしんぶつ》の多少によってその御利益《ごりやく》の程度を暗示して、利得を計ったものと思うが、どうか?」
「決してそうでは御座いません。自分の財産を投げ出しても、病人を救うのが医者の任務と心得まして、利得《りとく》を計ったことは御座いません。」
「然らば被告はいかなる考えで人命を断ったか? 竹駒稲荷の效験顕然《こうけんあらたか》なことを知らせようとしてのことか?」
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