です? この顕然《あらたか》な御神前で……」
祠守りの女が、祠の中から叫んだ。
「御神前も糞もあっかい。狐の小屋の前で小便をすりゃあ、どうだっていうんだ。犬を返せ。犬を返せ。でねけえ、何もかも敲き壊すぞ。」
彼は祠の入り口まで立って来た湯沢医者の妻女に、吠え付くようにして言って、また祠の柱に身を打ち付けた。
「それは、あなたの思い違いというものですよ。あなたが、清次郎さんに負けないように、お祈りをすれば、いいことなんですからね。」
「俺は、人間様だからな。そんな、稲荷だなんて、狐に頭を下げて頼むのなんか、真《ま》っ平《ぴら》だ。俺には人間の力があるだで。」
湯沢医師が、住まいの方から、盆の上に二本の徳利を載せて来た。そして平三を宥《なだ》めるようにして言うのだった。
「平三さん。悪いことは言わねえ。さあ、このお神酒《みき》をあげてお詫びをなせえ。酔っててのことだから、まだ取り返しは付く。さあ!」
「なんだと? お神酒だと? 酒なら俺が召し上がってやる。狐になんぞ、勿体《もってえ》ねえこった。」
そこへ彼の伜が来て、曳《ひ》き摺《ず》るようにして彼を拉《つ》れ帰ったのだったが、彼
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