したな!」
 平三は祠への階段を上《のぼ》りながら無暗《むやみ》に怒鳴った。そして彼は階段を上りきると、そこの赤い鳥居へ力任せに身体を打ち付けた。
「なんだえ! あんな禿頭に祈られたからって、俺んとこの犬を殺しやがって。糞垂稲荷め! お宮も何も敲《たた》き壊《こわ》してやるから。」
 彼は掌《てのひら》でばたばたと鳥居の柱を敲きながら矢鱈《やたら》に身体をも打ち付けた。打ち付け打ち付け罵詈讒謗《ばりざんぼう》を極めて見たが鳥居は動かなかった。
「なんということをするだね? そんなことすると罰《ばち》が当たりますぜ。おまえさん。大明神の顕然《あらたか》なのを知りなさらんのかね?」
 祠《ほこら》の前に住んでいる湯沢医者が、髯《ひげ》を扱《しご》きながら縁先へ出て来て、食肉鳥のような声を絞った。
「知ってらあ! 知り過ぎてらあ! だから敲き壊してやるのさ。その、白狐だかなんだか、撲《ぶ》っ殺《ころ》してくれっから。糞垂稲荷め!」
 平三はそう言い返して、大手を振りながら祠の軒先まで蹌踉《よろめ》いて行った。そして彼は、そこの礼拝の座に立ち小便を始めた。
「まあ、まあ! なんてことをなさるん
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