》まえて訊《き》いた。
「そうじゃないんです。今日ここで、活動の俳優を呼んだんだそうです。それでみんなこうして、その俳優の来るのを待っているんでしょう」
「活動の俳優って、つまり、活動の役者だね?」
「ええ、それに、外国の有名な活動俳優も来るとかいうので……」
「いずれにしろ、それじゃ大したこっちゃねえわけだね? おれ、何さまかのお通りだと思って……役者っていやあ、なんでえ、芸人じゃねえか。じゃ……」
 爺はそう呟《つぶや》いて、その人垣を打ち破って通り抜けようとした。だが、それは容易なことではなかった。その人垣は交差点の角に空を覆うて建った大百貨店の前から、幾重にもなって街上へ氾濫しているのであった。ちょうど街路を一つ隔てた向かい側に、同じような百貨店の大建築が出来上がり、その開店大売出しが今日だというので、こっちでも負けずに客を取ろうというのであった。建物全体をイルミネーションで包み、飾窓には、これから顔を見せにくるはずのシネマスターの大きな写真が何枚も貼《は》り出されてあった。そして、都合によっては来朝中の某国映画俳優も来てくれるはずになっているということが群衆の噂《うわさ》の焦
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