、地下と地上との対立を示す新しい出発点なのだ。消費者の占めていた地域の上に初めて生産者が氾濫《はんらん》し、生産者群の地帯が膨張するのだ。
 東京はいまその第二段階の軌道を踏んで、西郊一帯の農耕の地域に向けて広がりながら失業者を生んでいる。そして、社会のその宿命的な約束から逃れようとする人間の往来で、街上は朝の明け方から夜中まで洪水のような雑踏を極めている。わけても、新宿《しんじゅく》駅前から塩町《しおちょう》辺にかけての街上一帯は日に日にその雑踏が激しくなるばかりだ。
 吾平爺《ごへいじじい》は毎朝この雑踏の中を駆け抜けなければならないことを考えると、骨の底からの緊張を感ずるのであった。新宿駅前の、洪水のように吐き出されてきて四方へ散っていくあの人間の潮《うしお》! そして市内電車。草色の市営乗合自動車。水色の市営乗合自動車。その間を無数の円タクが鼓豆虫《みずすまし》のように縫い回るのであった。
 貨物自動車や自転車の間に挟まれて、雑踏に押し揉《も》まれながらよちよちと重い荷車を曳《ひ》いていく自分を、吾助爺は奔流の中に渦巻かれながら浮き沈みして流れていく木切れか何かのように感ずるの
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