#レ]禮。
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〔譯〕濁水《だくすゐ》も亦水なり、一|澄《ちよう》すれば則ち清水《せいすゐ》となる。客氣《きやくき》も亦氣なり、一|轉《てん》すれば則ち正氣《せいき》となる。客《きやく》を逐《お》ふの工夫は、只是れ己に克つなり、只是れ禮に復《かへ》るなり。
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〔評〕南洲|壯時《さうじ》角觝《かくてい》を好み、毎《つね》に壯士と角す。人之を苦《くる》しむ。其|守庭吏《しゆていり》と爲るや、庭《てい》中に土豚《どとん》を設《まう》けて、掃除《さうぢよ》を事《こと》とせず。既にして慨然《がいぜん》として天下を以て自ら任《にん》じ、節《せつ》を屈《くつ》して書を讀み、遂に復古《ふくこ》の大|業《げふ》を成せり。
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五七 理本無[#レ]形。無[#レ]形則無[#レ]名矣。形而後有[#レ]名。既有[#レ]名、則理謂[#二]之氣[#一]無[#二]不可[#一]。故專指[#二]本體[#一]、則形後亦謂[#二]之理[#一]。專指[#二]運用[#一]、則形前亦謂[#二]之氣[#一]、竝無[#二]不可[#一]。如[#二]浩然之氣[#一]、專指[#二]運用[#一]、其實太極之呼吸、只是一誠。謂[#二]之氣原[#一]、即是理。
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〔譯〕理は本《も》と形《かたち》無し。形無ければ則ち名無し。形ありて後に名有り。既に名有れば、則ち理之を氣と謂ふも、不可無し。故に專ら本體《ほんたい》を指せば、則ち形後《けいご》も亦之を理と謂ふ。專ら運用《うんよう》を指せば、則ち形前も亦之を氣と謂ふ、竝《ならび》に不可無し。浩然《かうぜん》の氣の如きは、專ら運用を指すも、其の實|太極《たいきよく》の呼吸《こきふ》にして、只是れ一|誠《せい》なり。之を氣|原《げん》と謂ふ、即ち是れ理なり。
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五八 物我一體、即是仁。我執[#二]公情[#一]以行[#二]公事[#一]、天下無[#レ]不[#レ]服。治亂之機、在[#二]於公不公[#一]。周子曰、公[#二]於己[#一]者、公[#二]於人[#一]。伊川又以[#二]公理[#一]、釋[#二]仁字[#一]。餘姚亦更[#二]博愛[#一]爲[#二]公愛[#一]。可[#二]并攷[#一]。
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〔譯〕物我《ぶつが》一|體《たい》は即ち是れ仁なり。我れ公情《こうじやう》を執《と》つて以て公事を行ふ、天下服せざる無し。治亂《ちらん》の機《き》は公と不公とに在り。周《しう》子曰ふ、己《おのれ》に公なる者は人に公なりと。伊川《いせん》又|公理《こうり》を以て仁の字を釋《しやく》す。餘姚《よえう》も亦博愛を更《あらた》めて公愛と爲せり。并《あは》せ攷《かんが》ふ可し。
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〔評〕余嘗て木戸公の言を記せり。曰ふ、會津藩士《あひづはんし》は、性直にして用ふ可し、長人《ちやうじん》の及ぶ所に非ざるなりと。夫れ會《くわい》は長《ちやう》の敵《てき》なり、而《し》かも其の言|此《かく》の如し。以て公の事を處《しよ》すること皆|公平《こうへい》なるを知るべし。
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五九 尊[#二]徳性[#一]、是以道[#二]問學[#一]、即是尊[#二]徳性[#一]。先立[#二]其大者[#一]、則其知也眞。能迪[#二]其知[#一]、則其功也實。畢竟一條路往來耳。
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〔譯〕徳性を尊ぶ、是を以て問學《ぶんがく》に道《よ》る、即ち是れ徳性を尊ぶなり。先づ其の大なる者を立つれば、則ち其知や眞《しん》なり。能く其の知を迪《ふ》めば、則ち其功や實《じつ》なり。畢竟《ひつきやう》一條《いちでう》路《ろ》の往來のみ。
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六〇 周子主[#レ]靜、謂[#三]心守[#二]本體[#一]。※[#「圖」の「回」に代えて「面から一、二画目をとったもの」、52−8]説自[#二]註無[#レ]欲故靜[#一]、程伯氏因[#レ]此有[#二]天理人欲之説[#一]。叔子持[#レ]敬工夫亦在[#レ]此。朱陸以下雖[#三]各有[#二]得[#レ]力處[#一]、而畢竟不[#レ]出[#二]此範圍[#一]。不[#レ]意至[#二]明儒[#一]、朱陸分[#レ]黨如[#二]敵讐[#一]。何以然邪。今之學者、宜[#下]以[#二]平心[#一]待[#上レ]之。取[#二]其得[#レ]力處[#一]可也。
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〔譯〕周子《しうし》靜《せい》を主《しゆ》とす、心《こゝろ》本體《ほんたい》を守るを謂ふなり。※[#「圖」の「回」に代えて「面から一、二画目をとったもの」、52−12]説《づせつ》に、「欲《よく》無し故に靜《せい》」と自註《じちゆう》す、程伯氏《ていはくし》此《これ》に因つて天|理《り》人|欲《よく》の説《せつ》有り。叔子《しゆくし》敬《けい》を持《ぢ》する工夫《くふう》も亦|此《こゝ》に在り。朱陸《しゆりく》以下各|力《ちから》を得る處有りと雖、而《し》かも畢竟《ひつきやう》此の範圍《はんい》を出でず。意《おも》はざりき明儒《みんじゆ》に至つて、朱陸《しゆりく》黨《たう》を分つこと敵讐《てきしう》の如くあらんとは。何を以て然るや。今の學ぶ者、宜しく平心を以て之を待つべし。其の力を得る處を取らば可なり。
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六一 象山、宇宙内事、皆己分内事、此謂[#二]男子擔當之志如[#一レ]此。陳※[#「さんずい+晧」の「日」に代えて「白」、第3水準1−87−18]引[#レ]此註[#二]射義[#一]、極是。
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〔譯〕象山《しようざん》の、宇宙《うちう》内《ない》の事は皆|己《おの》れ分内《ぶんない》の事は、此《こ》れ男子|擔當《たんたう》の志|此《かく》の如きを謂ふなり。陳※[#「さんずい+晧」の「日」に代えて「白」、第3水準1−87−18]《ちんかう》此を引いて射義《しやぎ》を註《ちゆう》す、極《きは》めて是《ぜ》なり。
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〔評〕南洲|嘗《かつ》て東湖に從うて學ぶ。當時《たうじ》書する所、今猶民間に存《そん》す。曰ふ、「一寸《いつすん》の英心《えいしん》萬夫《ばんぷ》に敵《てき》す」と。蓋《けだ》し復古《ふくこ》の業《げふ》を以て擔當《たんたう》することを爲す。維新《いしん》征東の功《こう》實に此に讖《しん》す。末路《まつろ》再《ふたゝ》び讖《しん》を成せるは、悲《かな》しむべきかな。
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六二 講[#二]論語[#一]、是慈父教[#レ]子意思。講[#二]孟子[#一]、是伯兄誨[#レ]季意思。講[#二]大學[#一]、如[#二]網在[#一レ]綱。講[#二]中庸[#一]、如[#二]雲出[#一レ]岫。
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〔譯〕論語《ろんご》を講《かう》ず、是れ慈父《じふ》の子を教ふる意思《いし》。孟子《まうし》を講ず、是れ伯兄の季《き》を誨《をし》ふる意思《いし》。大學《だいがく》を講ず、網《あみ》の綱《かう》に在る如し。中庸《ちゆうよう》を講ず、雲《くも》の岫《しう》を出づる如し。
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六三 易是性字註脚。詩是情字註脚。書是心字註脚。
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〔譯〕易《えき》は是れ性《せい》の字の註脚《ちゆうきやく》なり。詩《し》は是れ情の字の註脚なり。書《しよ》は是れ心の字の註脚なり。
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六四 獨得之見似[#レ]私、人驚[#二]其驟至[#一]。平凡之議似[#レ]公、世安[#二]其狃聞[#一]。凡聽[#二]人言[#一]、宜[#二]虚懷而邀[#一レ]之。勿[#レ]苟[#二]安狃聞[#一]可也。
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〔譯〕獨得《どくとく》の見《けん》は私《わたくし》に似る、人其の驟至《しうし》に驚《おどろ》く。平凡《へいぼん》の議《ぎ》は公に似る、世其の狃聞《ぢうぶん》に安んず。凡そ人の言を聽《き》くは、宜しく虚懷《きよくわい》にして之を邀《むか》ふべし。狃聞《ぢうぶん》に苟安《こうあん》することなくんば可なり。
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六五 心理是豎工夫、愽覽是横工夫。豎工夫、則深入自得。横工夫、則淺易汎濫。
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〔譯〕心理《しんり》は是れ豎《たて》の工夫なり、愽覽《はくらん》は是れ横《よこ》の工夫なり。豎《たて》の工夫は、則ち深入《しんにふ》自得《じとく》せよ。横《よこ》の工夫は、則ち淺易《せんい》汎濫《はんらん》なれ。
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六六 讀[#レ]經、宜[#下]以[#二]我之心[#一]讀[#二]經之心[#一]、以[#二]經之心[#一]釋[#中]我之心[#上]。不[#レ]然徒爾講[#二]明訓詁[#一]而已、便是終身不[#二]曾讀[#一]。
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〔譯〕經《けい》を讀むは、宜しく我れの心を以て經の心を讀み、經の心を以て我の心を釋《しやく》すべし。然らずして徒爾《とじ》に訓詁《くんこ》を講明《かうめい》するのみならば、便《すなは》ち是れ終身|曾《かつ》て讀まざるなり。
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六七 引[#レ]滿中[#レ]度、發無[#二]空箭[#一]。人事宜[#二]如[#レ]射然[#一]。
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〔譯〕滿《まん》を引《ひ》き度《ど》に中《あた》り、發して空箭《くうぜん》無し。人事宜しく射《しや》の如く然るべし。
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六八 前人、謂[#二]英氣害[#一レ]事。余則謂、英氣不[#レ]可[#レ]無、但露[#二]圭角[#一]爲[#二]不可[#一]。
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〔譯〕前人は、英氣《えいき》は事を害《がい》すと謂へり。余は則ち謂ふ、英氣は無かる可らず、但《た》だ圭角《けいかく》を露《あら》はすを不可と爲すと。
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六九 刀槊之技、懷[#二]怯心[#一]者衄、頼[#二]勇氣[#一]者敗。必也泯[#二]勇怯於一靜[#一]、忘[#二]勝負於一動[#一]。動[#レ]之以[#レ]天、廓然太公、靜[#レ]之以[#レ]地、物來順應。如[#レ]是者勝矣。心學亦不[#レ]外[#二]於此[#一]。
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〔譯〕刀槊《たうさく》の技《ぎ》、怯《きよ》心を懷《いだ》く者は衄《くじ》け、勇氣《ゆうき》を頼《たの》む者は敗《やぶ》る。必や勇怯《ゆうきよ》を一|靜《せい》に泯《ほろぼ》し、勝負《しようぶ》を一|動《どう》に忘《わす》れ、之を動《うご》かすに天を以てして、廓然《かくぜん》太公《たいこう》に、之を靜《しづ》むるに地を以てして、物《もの》來つて順應《じゆんおう》せん。是《かく》の如き者は勝《か》たん。心學も亦|此《こゝ》に外ならず。
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〔評〕長兵京師に敗《やぶ》る。木戸公は岡部氏に寄《よ》つて禍《わざはい》を免《まぬか》るゝことを得たり。後《のち》丹波に赴《おもむ》き、姓名《せいめい》を變
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