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一五 聖人安[#レ]死。賢人分[#レ]死。常人恐[#レ]死。
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〔譯〕聖人は死を安《やす》んず。賢人は死を分《ぶん》とす。常人は死を恐《おそ》る。
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一六 賢者臨[#レ]※[#「歹+勿」、33−1]、見[#二]理當[#一レ]然、以爲[#レ]分、恥[#レ]畏[#レ]死、而希[#レ]安[#レ]死、故神氣不[#レ]亂。又有[#二]遺訓[#一]、足[#二]以聳[#一レ]聽。而其不[#レ]及[#二]聖人[#一]亦在[#二]於此[#一]。聖人平生言動無[#二]一非[#一レ]訓。而臨[#レ]※[#「歹+勿」、33−3]、未[#三]必爲[#二]遺訓[#一]。視[#二]死生[#一]眞如[#二]晝夜[#一]、無[#レ]所[#レ]著[#レ]念。
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〔譯〕賢者は※[#「歹+勿」、33−4]《ぼつ》するに臨《のぞ》み、理《り》の當《まさ》に然るべきを見て、以て分《ぶん》と爲し、死を畏《おそ》るゝを恥《は》ぢて、死を安《やす》んずるを希《こひねが》ふ、故に神氣《しんき》亂《みだ》れず。又|遺訓《いくん》あり、以て聽《ちやう》を聳《そびや》かすに足る。而かも其の聖人に及ばざるも亦此に在り。聖人は平生の言動《げんどう》一として訓に非ざるは無し。而て※[#「歹+勿」、33−6]するに臨《のぞ》みて、未だ必しも遺訓を爲《つく》らず。死生《しせい》を視《み》ること眞に晝夜《ちうや》の如し、念《ねん》を著《つ》くる所無し。
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〔評〕十年の役《えき》、私學校の徒《と》、彈藥製造所《だんやくせいざうじよ》を掠《かす》む。南洲時に兎を大隈《おほすみ》山中に逐《お》ふ。之を聞いて猝《にはか》に色《いろ》を變《か》へて曰ふ、誤《しま》つたと。爾後《じご》肥後日向に轉戰して、神色|夷然《いぜん》たり。
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一七 堯舜文王、其所[#レ]遺典謨訓誥、皆可[#三]以爲[#二]萬世法[#一]。何遺命如[#レ]之。至[#二]於成王顧命、曾子善言[#一]、賢人分上自當[#レ]如[#レ]此已。因疑孔子泰山之歌、後人假託爲[#レ]之。檀弓※[#「匚<口」、第4水準2−3−67][#レ]信、多[#二]此類[#一]。欲[#レ]尊[#二]聖人[#一]、而却爲[#二]之累[#一]。
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〔譯〕堯舜《げうしゆん》文王は、其の遺《のこ》す所の典謨《てんぼ》訓誥《くんかう》、皆以て萬世の法と爲す可し。何の遺命《いめい》か之に如《し》かん。成《せい》王の顧命《こめい》、曾《そう》子の善言に至つては、賢人の分《ぶん》上|自《おのづか》ら當《まさ》に此の如くなるべきのみ。因つて疑《うたが》ふ、孔子|泰山《たいざん》の歌、後人|假託《かたく》之を爲《つく》れるならん。檀弓《だんぐう》の信じ※[#「匚<口」、第4水準2−3−67]《がた》きこと此の類多し。聖人を尊ばんと欲して、却《かへ》つて之が累《るゐ》を爲せり。
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一八 一部歴史、皆傳[#二]形迹[#一]、而情實或不[#レ]傳。讀[#レ]史者、須[#レ]要[#下]就[#二]形迹[#一]以討[#中]出情實[#上]。
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〔譯〕一|部《ぶ》の歴史《れきし》、皆|形迹《けいせき》を傳《つた》へて、情實《じやうじつ》或は傳らず。史を讀む者は、須らく形迹に就《つ》いて以て情實を討《たづ》ね出だすことを要すべし。
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一九 博聞強記、聰明横也。精義入[#レ]神、聰明竪也。
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〔譯〕博聞強記《はくぶんきやうき》は、聰明《そうめい》の横《よこ》なり。精義《せいぎ》神に入るは、聰明《そうめい》の竪《たて》なり。
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二〇 生物皆畏[#レ]死。人其靈也、當[#下]從[#二]畏[#レ]死之中[#一]、揀[#中]出不[#レ]畏[#レ]死之理[#上]。吾思、我身天物也。死生之權在[#レ]天、當[#レ]順[#二]受之[#一]。我之生也、自然而生、生時未[#二]嘗知[#一レ]喜矣。則我之死也、應[#三]亦自然而死、死時未[#二]嘗知[#一レ]悲也。天生[#レ]之而天死[#レ]之、一聽[#二]于天[#一]而已、吾何畏焉。吾性即天也。躯殼則藏[#レ]天之室也。精氣之爲[#レ]物也、天寓[#二]於此室[#一]。遊魂之爲[#レ]變也、天離[#二]於此室[#一]。死之後即生之前、生之前即死之後。而吾性之所[#二]以爲[#一レ]性者、恒在[#二]於死生之外[#一]、吾何畏焉。夫晝夜一理、幽明一理。原[#レ]始反[#レ]終、知[#二]死生之理[#一]、何其易簡而明白也。吾人當[#下]以[#二]此理[#一]自省[#上]焉。
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〔譯〕生物は皆死を畏《おそ》る。人は其|靈《れい》なり、當に死を畏るゝの中より死を畏れざるの理を揀出《けんしゆつ》すべし。吾れ思ふ、我が身は天物なり。死生の權《けん》は天に在り、當に之を順受《じゆんじゆ》すべし。我れの生るゝや自然にして生る、生るゝ時未だ嘗て喜《よろこ》ぶことを知らず。則ち我の死するや應《まさ》に亦自然にして死し、死する時未だ嘗て悲むことを知らざるべし。天之を生みて、天之を死《ころ》す、一に天に聽《まか》さんのみ、吾れ何ぞ畏れん。吾が性は即ち天なり、躯殼《くかく》は則ち天を藏《おさ》むるの室なり。精氣《せいき》の物と爲るや、天此の室に寓《ぐう》す。遊魂《いうこん》の變《へん》を爲すや、天此の室を離《はな》る。死の後は即ち生の前なり、生の前は即ち死の後なり。而て吾が性の性たる所以は、恒《つね》に死生の外に在り、吾れ何ぞ畏れん。夫れ晝夜は一|理《り》なり、幽明《いうめい》は一理なり。始めを原《たづ》ねて終《をは》りに反《かへ》らば、死生の理を知る、何ぞ其の易簡《いかん》にして明白なるや。吾人は當に此の理を以て自省《じせう》すべし。
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二一 畏[#レ]死者生後之情也、有[#二]躯殼[#一]而後有[#二]是情[#一]。不[#レ]畏[#レ]死者生前之性也、離[#二]躯殼[#一]而始見[#二]是性[#一]。人須[#レ]自[#二]得不[#レ]畏[#レ]死之理於畏[#レ]死之中[#一]、庶[#二]乎復[#一レ]性焉。
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〔譯〕死を畏るゝは生後の情なり、躯殼《くかく》有つて後に是《こ》の情あり。死を畏れざるは生前の性なり、躯殼《くかく》を離《はな》れて始て是の性を見る。人は須《すべか》らく死を畏れざるの理を死を畏るゝの中に自得《じとく》すべし、性に復《かへ》るに庶《ちか》し。
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〔評〕幕府勤王の士を逮《とら》ふ。南洲及び伊地知正治《いぢちまさはる》、海江田武治《かいえだたけはる》等尤も其の指目《しもく》する所となる。僧|月照《げつせう》嘗て近衞公の密命《みつめい》を喞《ふく》みて水戸に至る、幕吏之を索《もと》むること急なり。南洲其の免れざることを知り相共に鹿兒島に奔《はし》る。一日南洲、月照の宅を訪《と》ふ。此の夜月色|清輝《せいき》なり。預《あらかじ》め酒饌《しゆせん》を具《そな》へ、舟を薩海に泛《うか》ぶ、南洲及び平野次郎一僕と從ふ。月照船頭に立ち、和歌を朗吟して南洲に示す、南洲|首肯《しゆかう》する所あるものゝ如し、遂に相|擁《よう》して海に投《とう》ず。次郎等水聲起るを聞いて、倉皇《さうくわう》として之を救ふ。月照既に死して、南洲は蘇《よみがへ》ることを得たり。南洲は終身《しゆうしん》月照と死せざりしを憾《うら》みたりと云ふ。
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二二 誘掖而導[#レ]之、教之常也。警戒而喩[#レ]之、教之時也。躬行以率[#レ]之、教之本也。不[#レ]言而化[#レ]之、教之神也。抑而揚[#レ]之、激而進[#レ]之、教之權而變也。教亦多[#レ]術矣。
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〔譯〕誘掖《いうえき》して之を導《みちび》くは、教の常なり。警戒《けいかい》して之を喩《さと》すは、教の時なり。躬《み》に行うて之を率《ひ》きゐるは、教の本なり。言はずして之を化するは、教の神《しん》なり。抑《おさ》へて之を揚《あ》げ、激《げき》して之を進《すゝ》ましむるは、教の權《けん》にして而て變《へん》なり。教も亦|術《じゆつ》多し。
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二三 閑想客感、由[#二]志之不[#一レ]立。一志既立、百邪退聽。譬[#二]之清泉湧出、旁水不[#一レ]得[#二]渾入[#一]。
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〔譯〕閑想《かんさう》客感《きやくかん》は、志の立たざるに由る。一志既に立てば、百邪退き聽《き》く。之を清泉《せいせん》湧出《ようしゆつ》せば、旁水《ばうすゐ》渾入《こんにふ》することを得ざるに譬《たと》ふべし。
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〔評〕政府|郡縣《ぐんけん》の治《ち》を復《ふく》せんと欲す、木戸公と南洲と尤も之を主張す。或ひと南洲を見て之を説く、南洲曰く諾《だく》すと。其人又之を説く、南洲曰く、吉之助の一諾、死以て之を守ると、他語《たご》を交《まじ》へず。
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二四 心爲[#レ]靈。其條理動[#二]於情識[#一]、謂[#二]之欲[#一]。欲有[#二]公私[#一]、情識之通[#二]於條理[#一]爲[#レ]公。條理之滯[#二]於情識[#一]爲[#レ]私。自辨[#二]其通滯[#一]者、即便心之靈。
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〔譯〕心を靈《れい》と爲す。其の條理《でうり》の情識《じやうしき》に動《うご》く、之を欲《よく》と謂ふ。欲に公私《こうし》有り、情識の條理に通ずるを公と爲す。條理の情識に滯《とゞこほ》るを私と爲す。自ら其の通《つう》と滯《たい》とを辨《べん》ずるは、即ち心の靈《れい》なり。
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二五 人一生所[#レ]遭、有[#二]險阻[#一]、有[#二]坦夷[#一]、有[#二]安流[#一]、有[#二]驚瀾[#一]。是氣數自然、竟不[#レ]能[#レ]免、即易理也。人宜[#二]居而安、玩而樂[#一]焉。若趨[#二]避之[#一]、非[#二]達者之見[#一]。
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〔譯〕人一生|遭《あ》ふ所、險阻《けんそ》有り、坦夷《たんい》有り、安流《あんりう》有り、驚瀾《きやうらん》有り。是れ氣數《きすう》の自然にして、竟《つひ》に免《まぬが》るゝ能はず、即ち易理《えきり》なり。人宜しく居つて安んじ、玩《もてあそ》んで樂《たの》しむべし。若し之を趨避《すうひ》せば、達《たつ》者の見に非ず。
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〔評〕或ひと岩倉公幕を佐くと讒《ざん》す。公|薙髮《ていはつ》して岩倉邸に蟄居《ちつきよ》す。大橋|愼藏《しんざう》、香《か》川|敬《けい》三、玉松|操《みさを》、北島|秀朝《ひでとも》等、公の志を知り、深く結納《けつなふ》す。南洲及び大久保公、木戸公、後藤象次郎、坂本龍馬等公を洛東より迎へて、朝政に任ぜしむ。公既に職に在り、屡《しば/\》刺客《せきかく》の狙撃《そげ
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