ないものは「あやめ團子」と「あぶり餅」です。「あやめ團子」は小さな團子四つを串にさして葛でどろどろに溶いた醤油をつけたものです。「あぶり餅」は菱形の串にさした燒餅でして、これには醤油のほかに黒砂糖を加へてやはり葛で溶いた汁をつけます。
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水は水だがうぶすなのそえかえびす女に戸地男(そえはせえの意)
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 この狄は北狄と言ふところでして、とぢと何れも佐渡の北側にあります。東側の夷とはちがひます。東側の夷は殆んど完全に日本化して居りますが、相川以北の所謂海府地方ではまだ全然人種の違つた、昔のえびすらしい人達が住んで居ます。えびす女にとぢ男、何れも此邊の人は、同じ島でも小木邊の人とは全然違つて、鼻筋が通つた、美しい筋骨を持つた、眼の引つ込んだ、眉毛の長い、脊の高い人達です。どんな肌のなめらかさも、髮の毛の美しさも、骨格と筋肉との持つてゐる力に比べると木つぱのやうなものだと言ふことを、私は佐渡へ行つてはじめて經驗しました。利口さやリフアインさでは無い、炎天の水、饑ゑたときの食物のやうな力で、反省の暇がない位力強く生命そのものを引きつけるのは生きた健康
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