きやわしや幌かけに殿がばいた切りや枝そぎに(ばいたは薪です。)
山で木を切る音なつかしや殿が炭たく山ぢやもの
北は大佐渡南は小佐渡中は國なか米どころ
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海産物のほかには炭と米と竹と牛肉などを輸出します。牛飼ひはおけさには出て來ませんが、全島の山に放牧してあります。時時牛が山犬に食はれた噂をききます。犬が牛を食はうとするときには、牛の脊にまづ飛び上がります、そして尻尾に近いところに食ひつくのです。さうすると牛はこれを逐はうとしてぐるぐる回り出します。牛と言ふやつは妙な動物でして、一旦何か爲事を始めると途中で中止してほかの事をすることが出來ないで、だらしなく同じ事を爲續ける動物です。五六回ぐるぐるまはりをやるとあとは何十分でもぐるぐる囘り續けるのです。段段加速度になつて來る、それでも止めない。仕舞には眼が眩んで倒れる。それまで犬は背中で待つて居て、周圍で舌を出し腰を下ろして勇者の放れ業を見物してゐた友人達と一しよに盛宴を張るのです。
斯う言ふ野犬を驅り立てる段になると流石に人間の方が偉いやうです。大勢の村民が得物を持つて澤山の野犬を岩のごつごつした谿間に追ひ込む。
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