一部に乳色したうす紅を流す。
 毎日毎日の落日の變化。きんを流し、血を流す。或時は町一面を紅梅に染める。或時は緑の頂に燈かと思ひ違へるやうな朱を點ずる。
 天鵝絨の上にパステルで描いたやうな柔らかな朝。
 赤と強い黄の萱草が咲く、海を渡つて牛の草喰ひに行く島の横腹に。紫陽花が咲く、岩蔭の濃い緑の中に。
 斯うなると殆ど毎日毎日晴天續きです。
 あちこちの小學校中學校女學校で運動會が毎日のやうにある。町の村の婦人會の處女會の青年會のと引きつぎ引きつぎ初まる。レコオドコンサアト。オペラの出來損ひ。講演會。學藝會。追分會。おけさ會。プログラムは殆ど毎日を埋めて居る。
 七月に入るとお祭りが初まる。全島青年の競技會がある。
 十三日が相川町恩賜金記念日で町の有志の宴會が晝夜の二囘あるその翌日が鑛山祭です。
 鑛山で出來た町、鑛山で出來てゐる町、鑛山で食べてゐる町ですから、鑛山で東京の太神樂を招んで囃し立てるは勿論、町中の老若擧つて町中を踊つて歩くのです。唄はおけさ。島中の藝者が相川に集合して先頭となつて三味を引いて行く。それが幾組となく後から後から續く。太鼓、皷、笛、ブリキ鑵まで出る。馬車の喇
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