町を一寸南にでも北にでも外れると、海岸には水色や薄紅梅や乳色の岩が見え、縣道から二つ岩までの間は房州の鋸山で見るやうな剃刀砥のやうな、ところどころに木の葉や貝や魚類の化石を含んだ石で出來てゐるのですが、この祠のある場處は恐らく佐渡の最北端から金北山を通つて來た山の脊の一部の石灰の多い箇處が海か雨かのために虧けでもしたものらしく、白土をかぶつた山の一部がごぼりとなくなつて恐ろしい見苦しさを表はしてゐるのです。
祠を挾んでゐる二つの岩は女陰の形を造つて居ます。非常に大きくて黒く出來てゐるのが何となく不吉な豫想を暗示してゐます。祠の大きさは高さ三四尺もありませうか。もぐらなければ中へ這入れません。祠の小さいことが何となく恐ろしい感じを人に與へます。祠の奧は筒拔けになつてゐて、そこから更に深い大きな底の知れない洞穴に這入れます。けれども誰も土地の人で這入つて見たものはないやうです。もしあつても決して人に之を話しますまい。何故と言つて萬一そんなことを實行したものがあつたら佐渡全島の女を犯したものよりも非道い目に逢ふでせうから。
祠のある割目のほかにも數個の割目があります。要するに數個の大岩が
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