殆ど壁をよぢるやうな道でして相川から僅か十四五町も登ると既に峠の絶頂に達しられます。絶頂は薄の野になつてゐますが、相川から行つて白粘土の道を松と薄とで兩側の展望を障られた儘我知らず登りついてしまふと、其處には左手に無數の低い鳥居がお稻荷樣のやうに並んでゐます。鳥居をくぐつて奧まで行くと汚らしい繪馬堂があります。繪馬堂の先に眞つ黒な岩の間に挾まつた小さな祠があります。
 黒い岩や赤土は相川からぢかに東に登つた山では珍しくないのですが、白粘土ばかりの此邊でそれを見ると何だか飛んでもない氣がします。おまけにその黒い岩は千仭の谷の上に首を出してゐるのです。大局から見ると、佐渡と言ふ島は海の中から南と北との二個處にごぼごぼと吹き出して出來でもしたもののやうです。粘土の中から石英と石灰とで出來た山脈がところどころに赤玉だの瑪瑙だの青玉だのの肌を天日に晒し腹の中に鍾乳石だの水晶だの太古からの不思議な水だのを包んで輕石だの火山彈だのを浴びて二本並んで立つてゐるのです。相川が生憎石英粗面岩の大きなやつの上に立つてゐるので、冬の中ガラスの上に坐つてゐるやうな冷たさを住む人が經驗しなければならないのですが、
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