」は底本では「急句配にも」]谿底にも二三尺の矮生の樹が茨のやうに枝をくねらして生ひ茂つてゐて、その中から骨のやうに白くなつて立枯れした樹が並んでゐるのです。山の脊の西側の斜面には、灰色の燒石と赤土とが交錯して、紫紺から藤色乃至紅乃至赤を柔かにぼかして、その間を黄色い芝草、緑乃至代赭乃至紫の灌木が同じやうな明るい色で點綴してゐます。あれ山の儘太古の日にむき出しに照らされてゐるのです。
 浮島のある池の附近には倒れ重なつた半腐りの幹や枝の間から脊の高い細い樹がよろめくやうに生えてゐます。倒れ重なつた死木や死にかけた樹の下は沼地で、腐つた落葉の中から、ほの白い幽靈草、草とも木の實ともつかないやうな形をした突羽根草、さまざまの色の名の知れない菌が一面に生えて、樹の間を漏れる青い光を魔法にかからせて居ります。浮島は水蘚類や石松科の動物を去ることの餘り遠くない植物で覆はれてゐて、そのなかから喬木の若樹がふとした出來心でどうせ大きくは根を張れないのに三尺近くの細い幹をところどころに延ばして居ます。
 島のほぼ中央に穴があります。昔相川の町から行つて青野峠を越した向うのにくう村の談議所と言ふお寺の女中
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