す。
 藁の中に寢るのも原因の一つかも知れません。比較的町らしい處では藁を布團に填めて使ひます。これは非常に暖でもあり柔で氣持の好いものです。しかし大抵の農家では冬は藁を一部一杯に撒き散らした中に家内中裸で飛び込んで寢るのです。火事が起つて一家藁の中で死んだことがあるとかで、警察で禁止方針をとつてゐるのださうですがなかなかあらたまりません。
 裸で寢るのは藁にもぐつて寢ない町の人でも同じことださうです。しかしこれは越後地方でも同樣だとききました。
 概して不潔は土地の風でして、何處へ行つても臭くない町は見當りません。島の首府の相川でさへ、一年も住み慣れた私が臭いので寢附かれない晩が折折あります。土地の人は慣れてゐて感じないので餘處から來た人が正直にそれを言つてもありも爲ない事を言ふやうに思はれて大層憤られることがよくあります。下水の一部が水溜りになつてゐる處がありますが、土地が堅いために幾月もの間浸み込まずに腐るのです。相川には小さな流が全町を通じて八つありますが、川に添つて海まで出る路のついてゐるのが却つて災をして、川の口にその邊の臺處の芥を捨てに行くのが山に成つて居るのです。川の中
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