も芥で一杯ですが、その芥の中で洗ひ物をして居ります。いつか署長が役場に川の芥の掃除について注意を與へたことがあるさうです。すると役場の返答は、「あんたまだ新任で土地のことをよく御存知ねえからそんなことを言ふのどす。もう暫く見て居るがええです。ぢきに雨が降つて流してくれるのどす。」と言ふのだつたさうです。しかし、私が來てから甞て一度もさう言ふ大雨は降つたことがありません。
朝起きてはたきの音を聞いたことがありません。鍋釜をほとんど洗ひません。箸を洗ひません。火鉢の掃除は年に一度か二度するのでせう。下着は冬を通して着更へないものが多いやうです。下駄の眞つ黒なのは普通のことです。朝口を漱がないものは澤山居ります。
眼の變な、足の裏の汚い、虱だらけの着物を着た、臭い頭をした美人が、まつ白に白粉をつけてゐるのは天下の奇觀です。
更に内部に這入つて見ますと、わざわざ手の付いてゐるバケツの兩側に手をかけて水を運んだり、右左の手を逆さに使つて掃いたりしてゐるものもあります。立つて掃く帚もバケツも島では新輸入のハイカラ品だからです。アルミニウムの鑛釜は今だに損なものと思はれて居ります。洗はないので
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