玉團三郎は妖術に於いては日本一ださうです。昔日本一の妖術の大家が越後に住んでゐたさうです。名は聞き洩らしましたがとにかく狐だつたさうです。それと團三郎とある時術較べを爲ようと言ふことになつて、江戸へ出たさうです。どちらが先に術を使ふかと言ふ事を籤できめることにしましたら、團三郎の方が先へやることになつたさうです。團三郎は、それでは俺は明日の朝これこれの刻限に大名となつて素破しい行列を作つて登城するから見に來てくれと申しました。佐渡狐が翌朝町人に化けてお濠畔へ行つて待つてゐると梅鉢の定紋をつけた駕籠に乘つて大勢の家來を後先に付けた行列が通りました。つかつかとそばへ寄つて、駕籠の中を覗いて、おい、團三郎、さう威張り臭るなよと言ふが早いか、駕籠わきのものが驅け寄つて一刀の下に切つてしまつた[#「切つてしまつた」は底本では「切つてましつた」]さうです。切つて見ると古狐が死んでゐる。白晝のこととて大騷ぎをしたと言ふことです。これは團三郎が豫め加州の登城の時刻を知つて斯くあれかしと謀つてした事でして、其以來團三郎は妖術にかけては日本一と言ふことになつたのださうです。
團三郎だかどうだか知りません
前へ
次へ
全19ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
江南 文三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング