てもあまり見當らない處です。熊も居ず、猿も居ず、鹿も居ず、僅に兎と雉と蝮と蛙と馬追とこほろぎと岩蟲と女の兒の頭と襟とに住む虱と、道路の捨石の下にまで住む蚤と、何處の家の食膳にも止まる蠅と、虻と、笹でうまつてゐる海岸の切岸に住む雀と、山の岩で數町さきの異性と鳴き交はす鳶と、濱に來て犬をからかふ烏と、魚賣の手に寄生する水蟲と、人の數に匹敵する猫とその猫の取りきることの出來ない鼠と、まづその位の動物しか人間以外にはゐない處です。
その中で貉は佐渡の名物ださうで、四國猿と同じやうに佐渡貉と言ふのは熟語になつてゐるのださうです。
佐渡の貉は本來此島の産ではなくて、金山の鑛石を鎔かす鞴のにその毛皮が是非必要なので、餘處から取つて來て島の山に放したものだと言ふ話です。
能登と岩石の分布が酷似してゐることや、昔謙信が能登で金を採つたことなどを考へ合はせて、能登半島が本州の一部であるにも拘らず狐が居ないで貉だけがゐるのも何か地質や植物との關係もあるのではないかなどとも考へさせられます。
土佐には狐が居ないために、狐憑がなくて犬憑と言ふのがあるやうに、此處でも狐憑はなくて貉憑があります。
貉の親
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