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〔譯〕人は須らく忙裏《ばうり》に間《かん》を占《し》め、苦中《くちゆう》に樂《らく》を存ずる工夫を著《つ》くべし。
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〔評〕南洲岩崎谷洞中に居る。砲丸雨の如く、洞口を出づる能はず。詩あり云ふ「百戰無[#レ]功半歳間、首邱幸得[#レ]返[#二]家山[#一]。笑儂向[#レ]死如[#二]仙客[#一]。盡日洞中棋響間」(編者曰、此詩、長州ノ人杉孫七郎ノ作ナリ、南洲翁ノ作ト稱スルハ誤ル)謂はゆる忙《ばう》中に間を占むる者なり。然れども亦以て其の戰志無きを知るべし。余句あり、云ふ「可[#レ]見南洲無[#二]戰志[#一]。砲丸雨裡間牽[#レ]犬」と、是れ實録《じつろく》なり。
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九四 凡區[#二]處人事[#一]、當[#下]先慮[#二]其結局處[#一]、而後下[#上レ]手。無[#レ]楫之舟勿[#レ]行、無[#レ]的之箭勿[#レ]發。
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〔譯〕凡そ人事を區處《くしよ》するには、當さに先づ其の結局《けつきよく》の處を慮《おもんぱ》かりて、後に手を下すべし。楫《かぢ》無きの舟は行《や》る勿《なか》れ、的《まと》無きの箭《や》は發《はな》つ勿れ。
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九五 朝而不[#レ]食、則晝而饑。少而不[#レ]學、則壯而惑。饑者猶可[#レ]忍、惑者不[#レ]可[#二]奈何[#一]。
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〔譯〕朝《あさ》にして食《くら》はずば、晝《ひる》にして饑《う》う。少《わか》うして學ばずば、壯にして惑《まど》ふ。饑うるは猶|忍《しの》ぶ可し、惑《まど》ふは奈何ともす可からず。
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九六 今日之貧賤不[#レ]能[#二]素行[#一]、乃他日之富貴、必驕泰。今日之富貴不[#レ]能[#二]素行[#一]、乃他日之患難、必狼狽。
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〔譯〕今日の貧賤《ひんせん》に素行《そかう》する能はずば、乃ち他日の富貴《ふうき》に、必ず驕泰《けうたい》ならん。今日の富貴《ふうき》に素行《そかう》する能はずんば、乃ち他日の患難《くわんなん》に、必ず狼狽《らうばい》せん。
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〔評〕南洲、顯職《けんしよく》に居り勳功《くんこう》を負《お》ふと雖、身極めて質素《しつそ》なり。朝廷|賜《たま》ふ所の賞典《しやうてん》二千石は、悉《こと/″\》く私學校の費《ひ》に充《あ》つ。貧困《ひんこん》なる者あれば、嚢《のう》を傾《かたぶ》けて之を賑《すく》ふ。其の自ら視ること※[#「陷のつくり+欠」、65−6]然《かんぜん》として、微賤《びせん》の時の如し。
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九七 雅事多是虚、勿[#下]謂[#二]之雅[#一]而耽[#上レ]之。俗事却是實、勿[#下]謂[#二]之俗[#一]而忽[#上レ]之。
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〔譯〕雅事《がじ》多くは是れ虚《きよ》なり、之を雅《が》と謂うて之に耽《ふけ》ること勿れ。俗事却て是れ實なり、之を俗と謂うて之を忽《ゆるがせ》にすること勿れ。
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九八 歴代帝王、除[#二]唐虞[#一]外、無[#二]眞禪讓[#一]。商周已下、秦漢至[#二]於今[#一]、凡二十二史、皆以[#レ]武開[#レ]國、以[#レ]文治[#レ]之。因知、武猶[#レ]質、文則其毛彩、虎豹犬羊之所[#二]以分[#一]也。今之文士、其可[#レ]忘[#二]武事[#一]乎。
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〔譯〕歴代《れきだい》の帝王、唐虞《たうぐ》を除《のぞ》く外、眞の禪讓《ぜんじやう》なし。商周《しやうしう》已下《いか》秦漢《しんかん》より今に至るまで、凡そ二十二史、皆武を以て國を開き、文を以て之を治む。因つて知る、武は猶|質《しつ》のごとく、文は則ち其の毛彩《まうさい》にして、虎豹《こへう》犬羊の分るゝ所以なるを。今の文士、其れ武事を忘る可けんや。
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九九 遠方試[#レ]歩者、往往舍[#二]正路[#一]、※[#「走にょう+多」、66−3][#二]捷徑[#一]、或繆入[#二]林※[#「くさかんむり/奔」、66−3][#一]、可[#レ]嗤也。人事多類[#レ]此。特記[#レ]之。
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〔譯〕遠方《えんぱう》に歩を試《こゝろ》むる者、
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