往往にして正路《せいろ》を舍《すて》て、捷徑《せうけい》に※[#「走にょう+多」、66−5]《はし》り、或は繆《あやま》つて林※[#「くさかんむり/奔」、66−5]《りんまう》に入る、嗤《わら》ふ可きなり。人事多く此に類《るゐ》す。特《とく》に之を記《しる》す。
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一〇〇 智仁勇、人皆謂[#二]大徳難[#一レ]企。然凡爲[#二]邑宰[#一]者、固爲[#二]親民之職[#一]。其察[#二]奸慝[#一]、矜[#二]孤寡[#一]、折[#二]強梗[#一]、即是三徳實事。宜[#下]能就[#二]實迹[#一]以試[#レ]之可[#上]也。
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〔譯〕智仁勇は、人皆|大徳《たいとく》企《くはだ》て難しと謂ふ。然れども凡そ邑宰《いふさい》たる者は、固と親民《しんみん》の職《しよく》たり。其の奸慝《かんとく》を察し、孤寡《こくわ》を矜《あはれ》み、強梗《きやうかう》を折《くじ》くは、即ち是れ三徳の實事なり。宜しく能く實迹に就いて以て之を試《こゝろ》みて可なるべし。
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一〇一 身有[#二]老少[#一]、而心無[#二]老少[#一]。氣有[#二]老少[#一]、而理無[#二]老少[#一]。須[#丙]能執[#下]無[#二]老少[#一]之心[#上]、以體[#乙]無[#二]老少[#一]之理[#甲]。
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〔譯〕身に老少《らうせう》有りて、心に老少無し。氣に老少有りて、理に老少無し。須らく能く老少無きの心を執《と》つて、以て老少無きの理を體《たい》すべし。
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〔評〕幕府《ばくふ》南洲に禍《わざはひ》せんと欲す。藩侯《はんこう》之を患《うれ》へ、南洲を大島《おほしま》に竄《ざん》す。南洲|貶竄《へんざん》せらるゝこと前後數年なり、而て身益|壯《さかん》に、氣益|旺《さかん》に、讀書是より大に進むと云ふ。
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底本:「西郷南洲遺訓」岩波文庫、岩波書店
   1939(昭和14)年2月2日第1刷発行
   1985(昭和60)年2月20日第26刷発行
底本の親本:「南洲手抄言志録」博聞社
   1888(明治21)年5月17日発行
初出:「南洲手抄言志録」博聞社
   1888(明治21)年5月17日発行
※「「褒」の「保」に代えて「丑」」は「デザイン差」と見て「衰」で入力しました。
※底本の末尾に添えられた「書後の辭」で、秋月種樹氏が漢文の評言を附したとある。
入力:田中哲郎
校正:川山隆
2008年7月14日作成
2009年9月1日修正
青空文庫作成ファイル:
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