るは是れ誠《まこと》なり。
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三三 因[#二]民義[#一]以激[#レ]之、因[#二]民欲[#一]以趨[#レ]之、則民忘[#二]其生[#一]而致[#二]其死[#一]。是可[#二]以一戰[#一]。
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〔譯〕民の義《ぎ》に因つて以て之を激《げき》し、民の欲《よく》に因つて以て之を趨《はし》らさば、則ち民其の生を忘《わす》れて其の死を致《いた》さん。是れ以て一|戰《せん》す可し。
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〔評〕兵數は孰《いづ》れか衆《おほ》き、器械《きかい》は孰れか精《せい》なる、糧食《りやうしよく》は孰れか積《つ》める、この數者を以て之を較《くら》べば、薩長《さつちやう》の兵は固より幕府に及ばざるなり。然り而して伏見《ふしみ》の一戰、東兵|披靡《ひび》するものは何ぞや。南洲及び木戸公等の※[#「竹かんむり/束」、41−8]《さく》、民の欲《よく》に因つて之を趨《はし》らしたればなり。是を以て破竹《はちく》の勢《いきほひ》ありたり。
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三四 漸必成[#レ]事、惠必懷[#レ]人。如[#二]歴代姦雄[#一]、有[#下]竊[#二]其祕[#一]者[#上]、一時亦能遂[#レ]志。可[#レ]畏之至。
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〔譯〕漸《ぜん》は必ず事を成《な》し、惠《けい》は必ず人を懷《な》づく。歴代《れきだい》姦雄《かんゆう》の如き、其|祕《ひ》を竊《ぬす》む者有り、一時亦能く志を遂《と》ぐ。畏る可きの至りなり。
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三五 匿情似[#二]愼密[#一]。柔媚似[#二]恭順[#一]。剛愎似[#二]自信[#一]。故君子惡[#二]似而非者[#一]。
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〔譯〕匿情《とくじやう》は愼密《しんみつ》に似《に》る。柔媚《じうび》は恭順《きようじゆん》に似る。剛愎《がうふく》は自信《じしん》に似る。故に君子は似《に》て非《ひ》なる者を惡《にく》む。
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三六 事[#レ]君不[#レ]忠非[#レ]孝也、戰陳無[#レ]勇非[#レ]孝也。曾子孝子、其言如[#レ]此。彼謂[#三]忠孝不[#二]兩全[#一]者、世俗之見也。
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〔譯〕君に事《つか》へて忠ならざるは孝に非ざるなり、戰陳《せんじん》に勇《ゆう》無きは孝に非ざるなりと。曾子《そうし》は孝子なり、其の言|此《かく》の如し。彼の忠孝|兩全《りやうぜん》せずと謂ふは、世俗《せぞく》の見なり。
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〔評〕十年の難《なん》、賊の精鋭《せいえい》熊本城下に聚《あつま》る。而て援軍《えんぐん》未だ達せず。谷中將死を以て之を守り、少しも動かず。賊勢《ぞくせい》遂に屈し、其兵を東する能はず。昔者《むかし》加藤|嘉明《よしあき》言へるあり。曰ふ、將《しやう》を斬《き》り旗《はた》を搴《と》るは、氣盛なる者之を能くす、而かも眞勇《しんゆう》に非ざるなり。孤城《こじやう》を援《えん》なきに守り、孱《せん》主を衆|※[#「目+癸」、第4水準2−82−11]《そむ》くに保《たも》つ、律義者《りちぎもの》に非ざれば能はず、故に眞勇は必ず律義者《りちぎもの》に出づと。尾藤孝肇《びとうかうてう》曰ふ、律義《りちぎ》とは蓋《けだ》し直《ちよく》にして信あるを謂ふと。余謂ふ、孤城を援《えん》なきに守るは、谷中將の如くば可なりと。嗚呼中將は忠且つ勇なり、而して孝其の中《うち》に在り。
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三七 不[#レ]可[#レ]誣者人情、不[#レ]可[#レ]欺者天理、人皆知[#レ]之。蓋知而未[#レ]知。
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〔譯〕誣《し》ふ可らざる者は人情なり、欺《あざむ》く可らざる者は天理なり、人皆之を知る。蓋《けだ》し知つて而して未だ知らず。
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〔評〕榎本武揚《えのもとぶやう》等五|稜郭《りようかく》の兵已に敗る。海律全書《かいりつぜんしよ》二卷を以て我が海軍に贈《おく》つて云ふ、是れ嘗て荷蘭《おらんだ》に學んで獲《え》たる所なり、身と倶に滅《ほろ》ぶることを惜しむと。武揚の誣ふ可らざるの情|天聽《てんちやう》に達《たつ》し、其の死を宥し寵用《ちようよう》せらる、天理なり。
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三
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