くごう》は「※[#「毋の真ん中の縦棒が下につきぬけたもの」、12−7][#(シ)][#レ]意※[#「毋の真ん中の縦棒が下につきぬけたもの」、12−7][#(シ)][#レ]必※[#「毋の真ん中の縦棒が下につきぬけたもの」、12−7][#(シ)][#レ]固※[#「毋の真ん中の縦棒が下につきぬけたもの」、12−7][#(シ)][#レ]我」[#ここから割り注]○論語[#ここで割り注終わり]と云へり。總じて人は己れに克つを以て成り、自ら愛するを以て敗るゝぞ。能く古今の人物を見よ。事業を創起する人其事大抵十に七八迄は能く成し得れ共、殘り二つを終る迄成し得る人の希れなるは、始は能く己れを愼み事をも敬する故、功も立ち名も顯るゝなり。功立ち名顯るゝに隨ひ、いつしか自ら愛する心起り、恐懼|戒愼《かいしん》の意弛み、驕矜《けうきよう》の氣漸く長じ、其成し得たる事業を負《たの》み、苟も我が事を仕遂んとてまづき仕事に陷いり、終に敗るゝものにて、皆な自ら招く也。故に己れに克ちて、睹ず聞かざる所に戒愼するもの也。
二二 己れに克つに、事々物々時に臨みて克つ樣にては克ち得られぬなり。兼て氣象を以て克ち居れよと也。
二三 學に志す者、規模を宏大にせずば有る可からず。去りとて唯此こにのみ偏倚《へんい》すれば、或は身を修するに疎に成り行くゆゑ、終始己れに克ちて身を修する也。規模を宏大にして己れに克ち、男子は人を容れ、人に容れられては濟まぬものと思へよと、古語を書て授けらる。
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恢[#二]宏[#(スル)]其[#(ノ)]志氣[#(ヲ)][#一]者[#(ハ)]。人之患[#(ハ)]。莫[#(シ)][#レ]大[#(ナルハ)][#レ]乎[#下]自私自吝。安[#(ジテ)][#二]於卑俗[#(ニ)][#一]。而不[#(ル)][#中]以[#(テ)][#二]古人[#(ヲ)][#一]自[#(ラ)]期[#(セ)][#上]。
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古人を期するの意を請問せしに、堯舜を以て手本とし、孔夫子を教師とせよとぞ。
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二四 道は天地自然の物にして、人は之を行ふものなれば、天を敬するを目的とす。天は人も我も同一に愛し給ふゆゑ、我を愛する心を以て人を愛する也。
二五 人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして、己れを盡て人を咎めず、我が誠の足らざるを尋ぬべし。
二六 己れを愛するは善からぬことの第一也。修業の出來ぬも、事の成らぬも、過を改むることの出來ぬも、功に伐《ほこ》り驕謾《けうまん》の生ずるも、皆な自ら愛するが爲なれば、決して己れを愛せぬもの也。
二七 過ちを改るに、自ら過つたとさへ思ひ付かば、夫れにて善し、其事をば棄て顧みず、直に一歩踏出す可し。過を悔しく思ひ、取繕はんと心配するは、譬へば茶碗を割り、其缺けを集め合せ見るも同にて、詮《せん》もなきこと也。
二八 道を行ふには尊卑貴賤の差別無し。摘《つま》んで言へば、堯舜は天下に王として萬機の政事を執り給へ共、其の職とする所は教師也。孔夫子は魯國を始め、何方へも用ひられず、屡々困厄に逢ひ、匹夫にて世を終へ給ひしか共、三千の徒皆な道を行ひし也。
二九 道を行ふ者は、固より困厄に逢ふものなれば、如何なる艱難の地に立つとも、事の成否身の死生抔に、少しも關係せぬもの也。事には上手下手有り、物には出來る人出來ざる人有るより、自然心を動す人も有れ共、人は道を行ふものゆゑ、道を蹈むには上手下手も無く、出來ざる人も無し。故に只管《ひたす》ら道を行ひ道を樂み、若し艱難に逢うて之を凌んとならば、彌々《いよ/\》道を行ひ道を樂む可し。予壯年より艱難と云ふ艱難に罹りしゆゑ、今はどんな事に出會ふ共、動搖は致すまじ、夫れだけは仕合せなり。
三〇 命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也。此の仕末に困る人ならでは、艱難を共にして國家の大業は成し得られぬなり。去れ共、个樣《かやう》の人は、凡俗の眼には見得られぬぞと申さるゝに付、孟子に、「天下の廣居に居り、天下の正位に立ち、天下の大道を行ふ、志を得れば民と之に由り、志を得ざれば獨り其道を行ふ、富貴も淫すること能はず、貧賤も移すこと能はず、威武も屈すること能はず」と云ひしは、今仰せられし如きの人物にやと問ひしかば、いかにも其の通り、道に立ちたる人ならでは彼の氣象は出ぬ也。
三一 道を行ふ者は、天下|擧《こぞつ》て毀《そし》るも足らざるとせず、天下擧て譽るも足れりとせざるは、自ら信ずるの厚きが故也。其の工夫は、韓文公が伯夷の頌を熟讀して會得せよ。
三二 道に志す者は、偉業を貴ばぬもの也。司馬温公《しばおんこう》は閨中《けいちゆう》にて語りし言も、人に對して言ふべからざる事無しと申されたり。獨を愼むの學
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