で鯉丈《りじょう》の『和合人』発表の企画がある。くれぐれも加餐《かさん》を祈ってやまない。
[#改ページ]
橘之助懐古
「この頃になってしみじみ橘之助《きつのすけ》を思い返す。もう東京では人気もあるまいが、しかしあれだけの芸人はいない。――ことに、阿蘭陀《オランダ》甚句の得わかぬ文句、テリガラフや築地の居留地や川蒸気などそんな時代の大津絵や。
それから子供がいやいや[#「いやいや」に傍点]三味線を引っかかえてお稽古をする、あれなんぞは、どう考えても至上である。――仄かな瓦斯《ガス》灯からぬけだしてきたような、あの明治一代の女芸人。だが惜しいとまこと[#「まこと」に傍点]思う頃にはこれまた東京の人でない」
かつて私にこの小品があり、昨秋[#「昨秋」は底本では「咋秋」]、上梓した『随筆、寄席風俗』の中へ収めた。でも、これで見るともうその頃橘之助は先代|圓《まどか》といっしょになり、名古屋へ去っていたのだろうか。否、私の記憶によるとどうもそうではなく、この時の橘之助はまだまだ圓とはいっしょにならず、どこか別の地方へ稽古かたがた一人で行ってしまっていたのだという気がしてならない
前へ
次へ
全52ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング