りがあり、このことあって初めて完全にらくだの兄弟分はこの屑屋に圧倒されつくしてしまうのだったと語っていた。私の聴いたむらく[#「むらく」に傍点]の「らくだ」に残念ながらこの記憶はないのであるが、いかにもあのむらく[#「むらく」に傍点]のやりそうな表現で、凄惨である。そういえば早桶を質屋へ担ぎ込んだり、火中に立ち上がる願人坊主の姿を見せたり、死人にかんかんのう[#「かんかんのう」に傍点]を踊らせる以外に、さらにさらにむらく[#「むらく」に傍点]のはなんと棄てばちな人間生活の切れはしをチラリチラリと見せていたものかなと思う(後註――こののち当代小柳枝はわが主宰する寄席文化向上会(大塚鈴本)にて、この演出で驚くべき冴えをみせた。髪の毛のくだりもよく、黒鬼のごとき隠亡の登場も身の毛をよだたしめ[#「よだたしめ」に傍点]、この仁の前途多幸を思わしめた)。

 岡鬼太郎氏が吉右衛門一座に与えた「らくだ」の劇化「眠駱駝《ねむるがらくだ》物語」は、おしまいに近所で殺人のあるのが薬が強すぎて後味が悪い。岡さんのいやな辛辣な一面が、不用意に表れているように思われる。陰惨の情景は、あくまでむらく[#「むらく
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