襲う、ひと頃は鳴らせる音曲師なり。
七代圓太郎――先代橘の圓《まどか》門下。百圓より七代目圓太郎たり。
[#ここで字下げ終わり]
 これを要するに二代三代は知らず、他はことごとく音曲師だったわけである。
[#改ページ]

   続寄席囃子



    鼻の圓遊・木更津

 昔の芸人には、ずいぶん愉しい心意気の人がいた。
 中でもすててこをはやらせた鼻の圓遊は、
「俺は、まだ、いっぺんも駆け落ちをしたことがない。死ぬまでにいっぺんでいいから、駆け落ちの味を知っておきたいものだ」
 と言って、晩年、とうとうさる[#「さる」に傍点]商売女を頼んで、木更津まで逃げてもらったそうである。
 頼んで逃げてもらったのでは、まるで京伝の黄表紙にある「艶気蒲焼《うわきのかばやき》」の浮気屋艶次郎みたいなもので、
[#ここから1字下げ]
※[#歌記号、1−3−28]こんなえにしが唐紙の
 鴛鴦《おしどり》のつがいの楽しみに
 泊まり/\の旅籠《はたご》屋で
 ほんの旅寝の仮まくら
 うれしい仲じゃないかいな
[#ここで字下げ終わり]
 と「落人」にあるような味な雰囲気なぞ滲み出そうわけもなくどこまでも艶
前へ 次へ
全52ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 容 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング