水道橋方面の新色のところへ駆け付ける、さながら「つるつる」を地でいったような志ん太君と大塚駅で別れる。私もぐでんぐでんのトラだった。帰ってきた時十二時過ぎていたそうなり。
十二月三十日。
やはり今年中もう何も手につきそうになし。うちのものたち、朝から煤《すす》掃き。引き伸ばしの出きてきた写真を、額へ入れ替えたりしている。
『横浜市史稿――風俗篇』を寝床で読みながら、うつらうつら眠ってしまう。
夕方、女房と輪飾り、門松などとげぬき地蔵の方へ買いに行く。生の鰻の頭をみつけ、買って帰る。
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あら玉の 春目の前に 根笹かな
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夜、緑波君の「船長さん」の放送を聴くべく、今この炬燵へ。まだだいぶ時間があるのでこの日記を書く。誂えて松と梅と万両を壺へ活けさせたのを、そこへ花屋から届けてきた。すぐラジオセットの上へ飾る。我が家にもう新春《はる》がおとずれて来ていることを感じた。
底本:「寄席囃子 正岡容寄席随筆集」河出文庫、河出書房新社
2007(平成19)年9月20日初版発行
底本の親本:「随筆 寄席風俗」三杏書院
1943(昭和18)年10月刊
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年1月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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